個人にあった糖尿病のオーダーメイド医療を目指しています
糖尿病は血液中のブドウ糖濃度(血糖値)が高くなる病気です。
体内で血糖を下げる唯一のホルモンがインスリンです。インスリンの作用が弱まると、血糖値が上昇し、糖尿病になります。
症状がなくても、放置すれば、確実に合併症を併発し、失明や腎不全をひきおこすことがわかっています。
そのため、できるだけ血糖値とHbA1cを下げることが重要とされてきました。
しかし八事日赤で診療にあたっていた時に、低血糖などの薬物の副作用や有害事象で入院される患者様を診察し、ただ血糖値を下げることが目的でなく、薬を適正に使用し、副作用を最小限におさえる必要性を痛感していました。できるだけ内服薬を減らすように努力することは、医師の務めと考えています。
今年(2016年5月)の日本糖尿病学会で勧告があり、低血糖や認知症を防ぐために高齢者糖尿病の血糖コントロールの目標値が変更されました。
低血糖は、認知機能を障害するとともに、心筋梗塞や脳梗塞のリスクとなり得ます。
血糖コントロール目標は患者の特徴や健康状態:年齢、認知機能、身体機能、併発疾患、余命などを考慮して個別に設定する必要があります。
たくさんの薬をのまれ、有害作用が懸念される場合や、重篤な他の病気を治療されているリスクの高い患者様では、8.5%を目標とすることが許容されました。
極端な治療に走らず、相談しながら糖尿病を治療していきましょう。
1型糖尿病(インスリン依存型糖尿病、小児期に起こることが多いため小児糖尿病とも呼ばれます)は、主に自己免疫によっておこる病気です。
生活習慣病でも、先天性の病気でもありません。糖尿病患者の95%を占める2型(成人型)糖尿病とは原因も治療の考え方も異なります。
あなたは何も悪くない、不幸な事故にあってしまった、後ろから追突され重傷を負ってしまったと説明しています。社会の理解も、まだ十分とはいえません。
1921年にインスリンが発見されるまで、1型糖尿病の患者さんは、診断されるとすぐに亡くなっていました。 インスリンが投与されると、やせ衰えて虚ろな目をしていた幼児が、みるみると元気になっていき、死の病であった糖尿病は克服されたと考えられました。
しかしインスリンが発見されて10年後の1930年代の初めに、下肢のしびれが多発するようになり、多くの患者さんはネフローゼと高血圧を呈するようになりました。寿命が延びたたことにより、糖尿病を十分にコントロールしないと、数年で慢性合併症が発症してしまうことが分かったのです。
この当時の血糖値、ましてヘモグロビンA1cがどれくらいだったかは知るよしもありませんが、おそらく10%は超えていたと思われます。この状態で10年経過すると、確実に合併症があらわれることが証明されたのです。
どんなに頑張っている患者さんでも、現在の治療法では、HbA1c8%が限界のようです。しかし、最近急速に治療法が進歩しています。リブレのように、1型糖尿病の治療手段は発達しており、今後さらに発展していくと思います。
健康な成人のインスリン分泌の図
※画像クリックで拡大されます
これはインスリン分泌の図です。
健康成人では1食あたり約10単位のインスリンが分泌されます。また土台の部分を基礎分泌といい、約12-14単位が24時間かけて、分泌されています。
ノボラピッド朝10、昼10、夕10単位、眠前トレシーバ14単位の4回注射が1型糖尿病の基本的なインスリン治療となります。
フリースタイル リブレによる日内変動のグラフ
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この患者さんは、朝昼夕の食前にラピッドを10単位注射し、夕にランタスXRを14単位注射していました。
ランタスXRの効果で睡眠中から朝の血糖コントロールは良好でしたが、日中は、ずっと高血糖が続いていました。
24時間以上効果があるとされるランタスXRですが、この日内変動から、12時間しか効果が持続していないと考えられました。
ラピッドを10単位注射すると300mg/dlだった血糖値が100mg/dlまで下がってしまい、ラピッドはこれ以上増やせないと考えました。
日中の血糖を下げるために、朝にランタスXRを5単位追加したところ、昼から夕方にかけての高血糖が改善し、ヘモグロビンA1cも9.7%から8.0%に改善しました。
(ランタスXR 朝5単位 夕14単位の2回注射の変更後)
インスリン量の調節方法です。まず夜間睡眠中の血糖変動がないことを目標にします。持効型のランタスやトレシーバを調節し、朝の良好な血糖値と睡眠中の低血糖がないことを目指します。日中の基礎インスリンの調整は食事の影響があるため難しいです。絶食試験(昼食を抜く、あるいは遅らせて血糖値の推移を確認する。食べていないのに血糖値が上昇するなら、基礎インスリンが不足している)を行うこともあります。また、インスリンの効果が切れる昼食後4時間後の血糖値と夕食前の血糖値が同じになれば、基礎インスリン量は十分と判断します。
食前に超速効型インスリンを用い、食事中の糖質を処理します。インスリンの量は、食後3-4時間後に食前の血糖値(できれば100mg/dl)にもどることを目標とします。
カーボカウントとは、毎食ごとの炭水化物の量を計算し、インスリン量を調節する食事療法のひとつです。
個人差がありますが、1単位のインスリンで低下する血糖値を50 mg/dl/とし(インスリン効果値)、10gの糖質を処理するのに必要なインスリンを1単位(糖質/インスリン比)と設定します。
次に、1食に含まれる糖質量を算出します= 20 g(おかずに含まれる糖質量)、食品交換表による食事療法を行った場合、おかずの糖質量は、ほぼ20gになります。+主食の糖質量(米飯なら重量の40 %、もち・パンは重量の50%、ゆで麺・芋類は重量の20 %、乾麺は重量の70 %)。カーボカウントと糖質摂取 黒田 暁生先生 糖尿病59(1):24~26,2016。
食事中の糖質量が80gで糖質/インスリン比が10の場合には80÷10=8単位のインスリンが必要です。もし食前の血糖値が高い場合、例えば200mg/dLなら目標の100mg/dLに下げるためのインスリンが必要となります。インスリン効果値が50の場合には(200-100)÷50=2単位となります。従って、食前に必要なインスリン量は8+2=10単位となります。