甲状腺は、喉ぼとけの下で気管の前にあり、血液中にホルモンを分泌して、代謝を正常に保つ役割を持っています。
甲状腺の病気は、あまり知られていないため、発見しにくい病気です。
以下のような症状があれば、甲状腺疾患の可能性があります。ご相談ください。
診断や治療が難しい症例は、決して無理をせずに、コンサルテーションすることを心がけています。甲状腺疾患は、名古屋第二赤十字病院、名古屋大学、総合上飯田第一病院、名古屋甲状腺診療所、愛知医科大学に紹介をしています。
正常な甲状腺のエコー画像です。
心臓がドキドキする 手指が細かくふるえる 体が熱くなる 汗を異常にかくようになった 急にやせた イライラする
バセドウ病の患者さんです。
甲状腺はびまん性に腫大し、甲状腺実質の血流が増加することを反映して豊富な血流信号を認めました。
皮膚が乾燥しやすい 寒がりになった だるい 顔や手がむくむ 声がかすれる
甲状腺は腫大し、表面が凹凸を示します。
内部エコーは粗造で不均一でした。
頸部の痛みや発熱を訴え、甲状腺が硬くはれ、その部位に痛みを訴えます。
甲状腺中毒症(手のふるえ、動悸、息切れ、頻脈)を示します。
エコーでは、輪郭が不明瞭な低エコー像を呈します。
甲状腺に腫瘍のできる病気には、良性のものと悪性のものがあります。良性腫瘍には、濾胞腺腫と甲状腺全体に結節ができる腺腫様甲状腺腫があります。悪性腫瘍の主なものには、おとなしい癌(分化癌)である乳頭癌と濾胞癌があります。80~85%は乳頭癌、あとの約10%は濾胞癌です。乳頭癌の診断には穿刺吸引細胞診が有用です。濾胞腺腫と濾胞癌の鑑別は、細胞診だけでは困難で、手術で腫瘍を摘出し、細かく顕微鏡でみなければ診断できません。ただし、エコーの所見で、腫瘍が外側の被膜に浸潤している、腫瘍が硬い、腫瘍の可動性が悪い、腫瘍の大きさが4cm以上、経過観察中に徐々に大きくなるなどの特徴がある場合は悪性の可能性があり、手術を進めさせていただきます。
現在稀ではありますが、穿刺後の出血、急速な甲状腺の腫大など生命に関わる症例が報告され、開業医での安全確保が困難と考え、当院では穿刺吸引細胞診をおこなっていません。必要な患者様は御紹介させていただきます。
明らかに良性と診断できる場合は経過観察としています。頸動脈エコーやCTで偶発的に見つかった1cm以下の腫瘍については対応が難しいとされます。厚生労働省は、甲状腺エコーによる甲状腺のがん検診を、死亡率の低減効果が不明確であり、検査に伴う合併症などの不利益を被る可能性があるとして推奨していません。1cm以下の無症候性の微小乳頭がんは、通常一生放置しても無害に経過することから、経過観察とする病院も増えています。アメリカ甲状腺学会の甲状腺結節の取り扱いガイドラインでは、1センチ以下でリンパ節転移や局所進展のない腫瘍は、細胞診による診断をしないことが推奨されています。日本の医療に適用してよいかは未だ結論はでていませんが、1センチ以下の腫瘍では、細胞が十分とれないことが多く、また出血などの合併症のリスクもあがるため、当院では細胞診をおこなわず、エコーでの経過観察としています。細胞診を希望される患者様は、体制の整った病院に紹介させていただいております。
エコーの写真は患者様にお渡ししています。
甲状腺エコー エコーガイド下穿刺細胞吸引診
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左の甲状腺腫瘍で来院されました。 |
エコーガイド下で細胞診を施行。 |
濾胞腺腫
腫瘍の境界は鮮明で、内部にのう胞変性を認める。腫瘍内部の血流も乏しく、細胞診で良性と診断されました。
腺腫様甲状腺腫
両葉に過形成と思われる結節を多数認め、細胞診で良性の結果でした。
腺腫様甲状腺腫では腫瘍内出血をおこし、急に頸部の腫大を認めることがあります。穿刺で変性した血液を10ml吸引しました。
甲状腺乳頭癌
50代の甲状腺乳頭癌の患者様です。右葉に11mmの境界不明瞭粗雑 、内部エコーは低く不均質、微細な石灰化と思われる高エコーの結節を認めました。
20代の甲状腺乳頭癌の患者様です。左葉に微細な石灰化をともなう辺縁不整な腫瘍を認め、愛知県がんセンターに紹介させていただきました。周囲の骨格筋と気管軟骨への浸潤が見られました。
30代の甲状腺乳頭癌の患者様です。触診で左葉に硬く可動性不良な結節を認めました。
甲状腺乳頭癌は頚部リンパ節への転移が多くみられます。
内頸静脈に転移したリンパ節が浸潤していました。PET-CTで同部位に取り込みが認められ、腫瘍切除が予定されました。
甲状腺乳頭癌の患者様です。右葉に7.8mmの結節を認め、頚部リンパ節への転移を認めました。
検診で甲状腺腫大を指摘され受診、左葉に19.0mmの分葉状、形状不整な微細な石灰化をともなう腫瘍を認めました。細胞診で甲状腺乳頭癌と診断され、手術予定となりました。
甲状腺峡部の10mmの甲状腺乳頭癌の患者様です。小さい甲状腺癌は一生放置しても無害に経過することがあるため、経過観察とすることもあります。この患者様の場合、気管に浸潤している可能性があるため、神戸市にある隈病院で手術の予定となりました。
甲状腺乳頭癌の患者様です。甲状腺左葉に輪郭不整な低エコー像を示す結節を認めました。微細な石灰化があると、その後方は無エコー域(黒くみえます)となり、音響陰影(Acoustic shadow)として描出されます。
50代の甲状腺乳頭癌の患者様です。左葉に14.6mmの腫瘍を認めました。形状は不整で境界は不明瞭、粗雑。内部エコーは低く不均質、石灰化を疑う微細な高エコーが多発していました。
甲状腺右葉の15mmの甲状腺乳頭癌の患者様です。峡部から右葉に石灰化を認め、輪郭不整、内部エコーはやや低く、微細な石灰化像を認めました。気管浸潤を疑う症例と考え、愛知県がんセンターに紹介させていただきました。右葉と峡部切除、気管周囲郭清術をうけられました。
検診で左頸部の腫瘤を指摘され受診された、20代の女性です。甲状腺左葉の腫瘤の境界部の形状は不整で、多発散在する点状-線上高エコーが集簇していました。手術で乳頭癌と診断されました。
30代の甲状腺乳頭癌の患者様です。慢性甲状腺炎を合併していました。エコーでは明らかな結節を認めず、右葉内部は不均一で微細高エコーが多発していました。びまん性硬化型乳頭癌を疑い、名古屋甲状腺診療所に紹介させていただきました。細胞診で甲状腺乳頭癌と診断され、手術予定となりました。
健診で頸部腫瘤を受診。甲状腺右様に26.5mmの形状不整、内部エコー不均質な結節を認めました。愛知県がんセンターに紹介、細胞診で甲状腺乳頭癌が疑われ手術予定となりました。
30代の甲状腺乳頭癌の患者様です。右葉に辺縁不整な腫瘍を認め、頚部リンパ節への転移が疑われました。名古屋第一赤十字病院で手術、甲状腺乳頭癌の診断で甲状腺全的術、両側頸部外側領域郭清術がおこなわれました。
子宮癌の術後に、甲状腺のびまん性腫脹を訴え受診されました。石のように硬い甲状腺を触知しました。エコーでは明らかな腫瘤形成はなく、両葉はびまん性に腫大し、内部は低~等エコーで形状不整の所見を認めました。当院で細胞診行い、子宮癌の甲状腺転移と診断しました。
かすれた声(嗄声)と誤嚥を訴え受診、左頚部に固いリンパ節を触知しました。エコーでは形状不整、分葉状で内部は低エコーを示しました。左葉背側の食道癌により、声帯の動きを支配している反回神経の麻痺が原因でした。
首のしこりを主訴に受診された患者様です。甲状腺には異常を認めませんでしたが、右の頸部に、連続性に重なるように癒合する、低エコーの腫瘤を、数個認めました。
腫瘍内部の血流信号は増強していました。大学病院で生検していただき、頸部悪性リンパ腫と診断されました。悪性腫瘍では周辺部に加えて、結節内部にも豊富に血流を認めることが多いとされます。
甲状腺ホルモンの正常値は20歳から60 歳くらいまでの成人から作られているものが多く、4歳から15歳くらいまでの小児では、FT3、TSHが成人健常人よりも少し高くなります(Iwaku K (2013) Endocr J : 60 799-804)。バセドウ病や不適切TSH分泌症候群では、びまん性の甲状腺腫大を認めることが多いので、血液検査で異常を指摘された場合、エコー検査やホルモンの検査方法を変えて再検することが勧められます。
症例1は6歳の女の子、食思不振で他院に受診し、Free T3 5.04 (2.30~4.30 pg/mL)と甲状腺ホルモンの高値を指摘されました。症例2は9歳の女の子で、Free T3 4.23 (2.3~4.0 pg/mL)と異常を指摘され、受診されました。甲状腺エコーではともに問題なく、甲状腺機能亢進症の臨床所見もないので、経過観察が妥当と考えています。
症例1 6歳 |
症例2 9歳 |
低身長を訴え、小児科を受診し、甲状腺機能低下症と診断された5歳の女児です。甲状腺エコーを希望され、来院されました。甲状腺は萎縮し、内部エコーは低下(正常に比べ黒っぽくうつります)、不均一な萎縮した甲状腺を認めました。橋本病の亜型とされる萎縮性甲状腺炎と診断しました。
甲状腺内異所性胸腺
胸腺は胸骨の裏にある、免疫を担当する臓器です。思春期ごろに最大となりますが、その後は加齢とともに小さくなり、脂肪組織に置き換わっていきます。小児の約1%に甲状腺の部位に異所性胸腺が認められます。10代の小児の甲状腺エコーです。左葉上極に接するように、モザイク様の細かな高輝度組織がみられ、異所性胸腺と考えられました。石灰化を伴う小結節のように見え、甲状腺乳頭癌と間違われることもあります。
甲状腺の病気の詳細については、日本甲状腺学会のホームページをご覧ください。
今までの診療経験をふまえ、甲状腺疾患についての考察を述べさせていただきます。
バセドウ病は完治するのが難しく、薬を何年も(一生服用しなければいけない患者様もみえます)服用する必要があります。薬をやめると再発する方も多く、少量でも継続したほうが良さそうです。何度も再発を繰り返し、心機能が低下し、亡くなられた患者様もみえました。手術は、最も早く確実に治療効果が得られますが、合併症もあり、最後の手段と考えています。放射性ヨウ素内用療法は、安全な治療法で、難治性のバセドウ病の患者様には、ぜひ検討していただきたいと考えています。
甲状腺の病気は若い女性に多いため、妊娠中の管理が必要となります。バセドウ病はチアマゾール(MMI)を第1選択薬とします。副作用が少なく、効果が良いためです。しかし妊娠初期には、MMIによる奇形の報告があり、効果が劣り、肝機能障害や血管炎などの重篤な副作用の報告がある、プロピルチオウラシル(PTU)を第1選択薬とします。薬を服用しながらの妊娠となりますが、問題はないと考えられています。FT4値を非妊娠時の基準値の上限付近になるよう、やや高めに調節します。
軽度の甲状腺機能低下症あるいは甲状腺機能が正常であっても、橋本病の自己抗体が陽性であるだけで、流早産率、不妊症の原因になるとする報告があります。甲状腺ホルモンを服用することにより流早産率の低下、また不妊症の治療にも役立つ可能性があります。安全な薬ですので、不妊症に悩まれている患者さまには、試してみる価値があると思います。甲状腺刺激ホルモン(TSH)が2.5µU/ml以下になるように、T4製剤(チラーヂンS®、レボチロキシン®)の内服を調整します。TSHを4週後に2.5µU/ml以下にするために、TSHが2.5-4.5µU/mlならチラーヂンSを50μg(非妊娠時挙示希望なら25-37.5μg)、4.5-10µU/mlなら75μg(非妊娠時50μg)、TSHが10µU/ml以上なら100-125μg(非妊娠時75-100μg)服用します。妊娠中は25週までは1月に1回採血し、薬の量を調節しますが、25週以後補充量は変わらなくなります。また正常妊婦でも、妊娠後期にFT4値は非妊娠時に比べて低値を示すので、TSHを指標として治療します。妊娠前からチラージンを服用されている場合、妊娠が判明した時点で速やかにチラージンの補充量を30%増量します。
甲状腺癌については治療方針がまだ定まっていません。たとえ癌であっても1cm以下の小さな腫瘍は手術をしないで、経過をみることも提唱されています。1cm以下の場合は、細胞が十分に採取できないことが多いため、アメリカ甲状腺学会の指針では、検査すら行いません。ただし、エコーで気管や周囲の組織に浸潤が疑われる場合、検査をすすめることがあります。
濾胞性腫瘍は細胞診では診断がつきません。手術でとった腫瘍を、顕微鏡でみて、はじめて癌か良性かの区別がつきます。徐々に増大する場合や、エコーで悪性を疑う所見がある場合に手術をすすめています。
副甲状腺は、甲状腺の裏にある米粒くらいの臓器で、副甲状腺ホルモンをつくり、骨に蓄えられているカルシウムを溶かしだし、血液のカルシウム濃度を調節しています。副甲状腺に腫瘍ができると、副甲状腺ホルモンを過剰に分泌し、血液中のカルシウム濃度を必要以上に高くするために、さまざまな症状を引き起こします。骨が溶けることにより、骨折しやすくなります。尿中に過剰のカルシウムが排泄されるために、尿路結石をおこします。また高カルシウム血症により、吐き気や食欲低下などの消化器症状、精神的にイライラし、疲れやすいなどの症状がでます。検診で高カルシウム血症が偶然発見されることも多くなりました。
このかたは偶然見つかった副甲状腺腺腫です。一見、甲状腺のう胞にみえますが、甲状腺の裏側にあり、手術をしていただきました。
この患者様は、バセドウ病で治療されていました。初診時より高カルシウム血症を指摘されていましたが、副甲状腺腫瘍の局在がわからず、経過観察となっていました。intact-PTH 133pg/ml(10-65)、カルシウム10.2mg/dl(8.7-10.3)、P 2.4mg/dl(2.5-4.7)でした。甲状腺エコーでは右葉下極に6.8*6.3mmのlow echoの結節を認めました。甲状腺嚢胞のようにもみえますが、副甲状腺腺腫の可能性も考えました。総合病院に紹介するも、局在がはっきりせず、経過観察となっていました。経験の豊富な、総合上飯田第一病院の甲状腺外科にコンサルトさせて頂きました。精密なCTの解析と外科医による丹念なエコー診断をおこなって頂き、同部位が副甲状腺腫瘍であると診断され、手術をおこなって頂きました。手術は成功し、長年患者さんを悩ませてきた、骨痛や、不安感などの不快な症状はなくなり、完治されました。
検診で甲状腺腫瘍を指摘、右葉上極に接して2cmの結節をみとめました。副甲状腺ホルモンであるintact PTHは112 pg/ml (10-56)と高値であり、原発性副甲状腺機能亢進症と診断されました。副甲状腺腫は甲状腺被膜の背側に扁平で内部均質な低エコー腫瘤として認められます。ドプラ法では腫瘍内部に豊富な血流認めることがあります。発性副甲状腺機能亢進症が長い間続くと、PTHは骨からカルシウムを奪い骨の破壊が進みます。高カルシウム血症を招き、骨密度が低下し骨粗鬆症となり、骨折する危険性が高くなります。また、骨から放出されたカルシウムは腎臓に沈着するために尿路結石や腎障害を生じることがあります。
頚動脈エコー検査
頸動脈エコーは、簡便で視覚的に動脈硬化の診断が出来る検査です。
全身の動脈硬化の程度が評価できます。
1mmを超える限局性の壁隆起をプラークと呼び、プラークの破綻が脳梗塞などを引き起こす可能性がありとされています。
コレステロールの薬を服用する必要性があるかを判定するのに良い指標です。
頸動脈エコー
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右の頸動脈に石灰化(動脈硬化)を認めます。 |
高コレステロール血症のため、 |
食道憩室の2例です。左葉背側に境界明瞭な腫瘤を認め、(性状)境界部は低エコー内部は充実性部と高輝度エコーが混在しています。境界部と食道との連続性を認めます。甲状腺左葉背側に腫瘤性病変を認めた場合には、甲状腺や副甲状腺の腫瘤との鑑別を行う上で、食道憩室の存在も念頭に置く必要があります。
食道憩室 症例1
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食道憩室 症例2
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